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高知簡易裁判所 昭和41年(ハ)438号 判決 1968年7月03日

原告 有限会社檜垣黒板教育品製作所

右代表者代表取締役 檜垣ツネ子

右訴訟代理人弁護士 隅田誠一

被告 中山黒板教具有限会社

右代表者代表取締役 中山雅弘

右訴訟代理人弁護士 細木歳男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の申立

原告の求める裁判

被告は原告に対し、金九八、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

被告の求める裁判

主文第一、二項と同旨

原告の請求原因

一、訴外野地黒板株式会社はその製作にかかるPR式曲面黒板(以下PR黒板という)について、特許法にいわゆる通常実施権を有し、全国各地に代理店を設けてその塗装、販売を代行させている。

原告は、昭和三〇年七月右訴外会社の前身である野地硬質黒板製作所と、更に同三六年三月その四国総代理店である訴外有限会社精工舎と、それぞれ契約をもって、原告のみが高知県下一圓におけるPR黒板の一手販売方を委任され、同県内においては他店には一切同黒板の販売等はさせない旨の特約を結んだ。

二、被告会社は全国黒板業者中の最古参者の一人で、全国並びに四国の黒板工業連盟の有力連盟員であり、且つ同社自身黒板塗料黒板拭き等について幾件かの特許をも得ている関係上、特許製品の製造、加工乃至販売上の注意事項については他の一般業者よりも一段と明るく、PR黒板が特許品であることはもとより、その製造及び加工の過程乃至は販売業務についての代理系列内容を熟知し、殊に原告が精工舎との前記契約に基く高知県下におけるこれが一手販売の権利を有することを知悉しているものである。

三、訴外柳生建設株式会社は昭和四〇年度における高知県高岡郡佐川町立佐川小学校の改築工事を施行するにあたり、PR黒板を取り付けることを条件として工事を請負っていたものであるところ、被告は同会社よりPR黒板納入方の注文を受けるや、これを高知県下における一手販売の代理店である原告より入手して納入すべきに拘らず、原告を通ぜずして徳島県下における同黒板の特約店である北島黒板製作所と相い謀り、前記四国総代理店精工舎に対して徳島県下の学校に使用するものと偽り、同四一年一月右精工舎よりPR黒板1m×3.6mのもの一四枚の出荷を受け、これを佐川小学校用として柳生建設株式会社に納入し、もって原告の高知県下における同黒板についての唯一の特約販売活動上の権利を故意に侵害した。

四、右黒板一枚の卸売価額は約一万円以上であり、小売価額は約一万七千円以上であるから、原告は被告の右不法行為により、少くとも金九八、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙ったので、被告に対し、右金員とこれに対する本件訴状の被告に送達された日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告の答弁

1、第一項中、訴外野地黒板株式会社製作にかかるPR黒板につき、同会社が特許権を有すること並びに原告が、同黒板の四国販売総代理店である精工舎の高知県下における代理店であることは認める(尤も右代理店の形態が、自己商か商法上の問屋か或は代理商かは知らない。)が、その余の事実は知らない。

2、第二項中、被告会社がPR黒板の製造加工等の過程や販売業務の代理系列を熟知しているとの点を否認し、その余の事実は認める。

3、第三項中、被告会社が北島黒板製作所と相い謀って徳島県下の学校に使用するものと精工舎を偽りPR黒板の出荷を受けたとの点を否認し、その余の事実は認める。

被告は原告主張の規格並びに数量のPR黒板を、大阪市の北島黒板製作所より買い受けたものである。

4、第四項は争う。

被告の主張

原告は本訴において被告の不法行為を主張し、損害の賠償を求めているところ、原告のいう代理店の形態が如何なる内容のものか必ずしも明らかでないが、その如何なる形態にもせよ、そうした原告らの権利義務の関係は、その契約当事者間のみに止まり、何等契約に関与しない被告の拘束さるべきいわれはない。自由競争を立前とする商取引界において、一手販売業者を通ぜず被告が他より商品を購入することは全く被告の自由であり、そのため一手販売業者たる原告が損害を蒙ったとしても、被告に何の責任もあるべき筈はない。そのことは原告主張の代理店系列の内容を、仮に被告が知っていたとしても、何の消長をも及ぼさない。

立証≪省略≫

理由

訴外野地黒板株式会社製作にかかるPR黒板について、原告が四国販売の総代理店である訴外精工舎の高知県下における一手販売の代理店を営んでいる事実、並びに被告が右代理店たる原告を通ぜずして、昭和四一年一月頃同黒板一四枚を他から購入した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

次に≪証拠省略≫を綜合すると、被告は右黒板の購入にあたり、高知県下においては原告を通ぜずPR黒板を入手することが事実上困難なところから、徳島県下における同黒板販売の代理店である訴外北島黒板製作所を通じ訴外野地黒板株式会社大阪営業所に対し、徳島県下の学校において使用するものである旨申し向け、もって同営業所より前記精工舎を経てこれを購入したものであることを認定することができる。

そこで原告は、被告の右購入行為をもって不法行為にあたるとなし、その得べかりし利益を喪失したものとして、これが損害の賠償を求めているので、以下その当否を判断する。

一、思うに商品の販売にあたり、その商品の特殊性等からして、或る一定の地域を限って特定の代理店にのみ販売の権利を与え、その地域内においては他人には販売せしめないいわゆる一手販売機構による販売方法が世上行われているが、こうした機構における代理店の特典的な地位乃至権利関係は、専ら本人とその代理店との間の契約に基くものであって、契約当事者以外の第三者のこれに拘束さるべきいわれはない。つまり代理店が一手販売という独占的権利を本人から与えられているといっても、それは代理店と本人との間の「他人をしては販売せしめない」という債権債務の関係に止まり、もしそれが一定の地域を限られている場合においても、その地域内の一般需要者としては―地域外の者ももとより―何ら当該代理店より購入すべきことを義務づけられるものではない。このことは元来が自由競争に委ねられている商取引界においては当然のことというべきであろう。或は稀には国家が法令をもって統制することはあり得ても、そうしたことのない限り、需要者にとっての購入先の選択は全く自由であり、その自由は一手販売機構の存在を知ると否とに拘わらない。

二、そうした自由取引の立場から、需要者が一手販売の代理店を通ぜず代理店販売のものと同種の商品を他店から購入した場合、代理店としては、販売したならば得たであろう利益を失なうべきことは―およそ販売には利潤を伴うのを通例とするがゆえに―いうまでもないところであるが、かかる場合代理店の逸失利益について当該購入者に対し、代理店の営業活動上の利益を侵害したものとして、これが賠償責任を追求し得るか否かは、その場合を局限して論ずべき問題である。

一般的な見地からすれば、取引自由の原則に鑑み、代理店というルートを経ずに商品を購入したからといって、そのことが直ちに代理店に対する営業活動上の利益侵害の不法行為を構成するに至るものでないことは、多言を要しないところであろう。もとよりかかる代理店と本人との間の一手販売の債権関係に基く独占的利益と雖も、時に第三者による侵害責任の肯定される場合が有り得るであろうけれでも、その債権の本質上賠償責任の生ずる場合は自ら限定さるべきであり、今日の市民法原理に照らして、著しく妥当性を欠き反社会性の強度な場合においてのみ、はじめて是認さるべきものと考える。すなわちそのためには、第三者の他店よりの購入が、その手段方法において強度の違法性を有し、しかも侵害についての故意があることを要するのである。

叙上の見解に立って本件を案ずるに、先ず被告に故意があったこと、すなわち原告を通ぜず他店から黒板を購入することにより、その結果として、原告にこれが販売をなし得ざりしによる不利益をもたらすべきことを、被告において予め認識していたことは、弁論の全趣旨に徴し容易にこれを認定することができる。

しかし被告がその購入にあたり、徳島県下のPR黒板販売の代理店である訴外北島黒板製作所を通じ、徳島県下の学校において使用する旨虚言を用いてなしたというその行為は、被告も亦黒板取扱いの同業者であるところから商業道徳上如何にこれを評価するかは論外として、これをもって違法性を有するものと断定することは到底できない。すなわち一手販売の代理店を経ず他店から商品を購入するにあたり、かかる手段方法を用いたからといって、前示の如く元来自由競争に委ねられている商取引界の実態に徴するならば、かかる程度の行為は、一手販売機構の下における購入を余儀なくされることを避けんがため止むなくなされた商略とも目さざるを得ないのであって、その詐言を用いるが如きはもとより好ましからざることではあるけれども、これをもって違法視すべき対象となすには当らない。かくて右行為はいまだ今日の市民法原理にもとるものでもなければ亦反社会性を有するものでもない。

してみると被告の本件黒板の購入行為は、原告に対する不法行為をもって論ずるに由なく、従って原告に損害を生じたとしても、被告に賠償の責任はないのであるから、原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 市原佐竹)

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